本作は北九州監禁殺人事件に着想を得ている。
事件は報道規制がかかるほど凄惨で、そういう意味で有名ではある。
映画に年齢制限がかかっているのも当然でグロいしエロい。内臓成分強め。
『冷たい熱帯魚』と同じく人間を透明にしていて、実はそれを期待していたので嬉しかった。
小道具的なんだけど臭そうで、私にはちょうどいいバランスで好き。
序盤は女子高生の演劇調シーンと棒読みと説明セリフが続いて退屈だった。
「何を観させられているんだ・・・」と思える時間が長かったが、詐欺師・村田(椎名桔平)が通電棒を持ち出した辺りで話の方向がわかってきた。
モチーフあれど話の本筋は全くの別物で、混ぜ方が見事。
村田と美津子・妙子の小さい関係から映画仲間、美津子の家族まで巻き込まれていく様子は自然で、洗脳の見えない凶器ぶりがよくわかる。
気づけば『映画を撮ること』が『殺す』と同じ意味になっていたのは、寒い気持ちがした。
人を傷めつけたり殺したりすることが非日常でなくなったら、順番が回ってくるだけでそれが自分か誰かかという話なだけ。という感覚が伝わってきたから。
素直な人、世間体を気にする人、大きいものに巻かれる人など他愛もない個性を突いて自分の手駒にする村田は恐ろしい。
人を傷つけたり殴ったりすることに躊躇しない人は普通に存在していて、違和感を覚えたらすぐに距離をとらないとつけこまれてしまう。
村田の狂気はそれを光らせる人間探しから始まっている。
椎名桔平演じる村田は良かった。
サイコパス的な、しれっとしたまま押し切る力も強いし夜も得意なキャラクターに説得力があった。
ラスト、森のシーンですべてがわかるんだけども、実は~でした!実は~でした!が続いていて、「そうだったのかー!」よりも「ああ、そうなの・・・」という気持ちになったのが残念。
映画がつぎはぎしているので、カタルシスもなく、観終わったあと残る余韻は生臭いものだけ。
村田は射殺されることなく、ロミオの車に乗り森を抜ける。
現実の通り死刑執行、地獄行き、ということなんだろう・・・。
園子温監督、園監督作品ファンは観て損はないと思う。
ネットフリックスだから表現の限界に挑戦!とかではなく、園監督らしさのある映画。
モチーフの事件の概要くらいは知っていると楽しめる。
今作はでんでんが村田から暴行を受けていたが、『冷たい熱帯魚』で立場が逆転したでんでんの演技は必見。