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10階のおばあさん

大雨の日。仕事から帰ってきて、マンションの玄関に入るとおばあさんがいた。

マンションの住人とは接点がないので誰が住んでいるのか、年代は、家族構成は、なんて何も知らない。

いつも通りに横をスッと通ってやり過ごそうとしたら、何か言ってる風だったのでイヤホンを取った。

おばあさんは「買い物に行かないといけない」「下に買いに行く」「食べ物がない」「ここから外に出られるのか」「大丈夫なのか」ともごもご言っていた。

ここは1階で地下はないし、雨だし、何だかとにかくわかってない人みたいだった。

 

結構まずいかも・・・と思って聞くと、家には誰もいないし、電話するような人もいないらしい。見た目には小さくて可愛いおばあさんなんだけどな、話してると自分のことも曖昧で、おボケになられてる人なんだと理解した。

 

「雨だから外出ないほうがいいですよ」

「ごはんないでしょ、買いに行かないといけないの」

 

ご飯がなければまた出てしまうだろうし、これは買い物付き合うしかないなと腹を決めた。

幸い近くにはコンビニがあるので、そのまま徒歩で連れて行った。

傘差す余裕もないから、濡れながらとぼとぼ歩く。足元もおぼつかなかったのか。

「階段ありますから気を付けてね」

言葉を簡単に伝える必要があるから、敬語もしなくていいかと思った。

歩いてる道もよくわかってなさそう。たまに手をギューと握ってくる。不安がっててかわいそうだった。

 

入店。とりあえずお弁当の棚に。

「これ何?」「これは?」「読めない」ばかりで困った。特にコンビニのごはんなんて味濃くて炭水化物で量はあるから、あんまり適当なものを選びたくはなかった。

ちょうど小さめの幕の内弁当があって良かった。

「お弁当には汁物がないとね」らしいので、汁物コーナーに行ってみたけど、お湯作れないらしいし、お湯入れて部屋まで持ってくのも無理だなと思って諦めた。

どうしても汁物が欲しいらしいので、本意ではないけど、うどんを合わせてあげた。これならレンジしてもらえば食べられるし、けがもしないだろう。

 

たくさんのごはんを持ちながら「ビール2本」と言うので、エビスを2本入れた気がする。私は通りすがりの人だから「まあ~ねえー」と思って気にならないけど、これを毎日付き合うとなると、かなりしんどいなと思った。

 

おばあさんの財布から1500円出して会計した。たくさん買わせちゃったな、と悪い気がしたけど、自分が出すのもおかしいから考えないようにした。

レシートは、(入ってればちゃんと買った証拠になるからいいよね・・・)として空いた財布に差し込んだ。

 

部屋番号も覚えていたので、言われるまま10階に連れて行った。

「10階の~10号室~」と言ってたけど、鍵を入れたのは4号室ですごいびっくりしたけど開いたからこっちが正しいようだった。良かった。

 

ドアを開けると廊下の奥にはのれんがかかって、ちゃんとしてる感じのお宅だった。よく見ると床がよくわからない何かで汚れてたし、靴入れの上はごちゃごちゃしてた。

おばあさんはペラペラのスリッパを触りながら「これあなたの?」と聞いてきたけど、「ちがいますよ!w」とヘラヘラしながら答えた。

そういえば、部屋からおむつのようなうんこのようなにおいがしている。

ここまでわからない時があればそりゃそうか・・・と思い、これで一人暮らしなのか・・・とも思った。

 

役目は終わったのでさっさと帰ろうという時、「あなた何号室のひと?」と聞いてくれるので正しく答えたけど、すぐ忘れるだろうから平気で教えられたのかもしれない。

結局あれからうちに凸してくることもなく、私は平穏に過ごしている。

子供もなく近所付き合いも親戚付き合いもなく大人同士みみっちく暮らしていても、高齢社会はあっちから突っ込んでくるのだなと思った。